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母「いちばん怖いのは人間だよ」【サクラメント 死の楽園】

子供の頃に怖かったもの

2005年くらいまでは、夏の時期ってやたらと心霊番組やってましたよね。最近は減ってしまいましたけど、個人的には嬉しいです。

今でこそホラー映画って一人でも観るんですけど、高校生くらいまでは大っ嫌いでした。
「お金を払って怖い思いをするって何事?パクチーを食べるのと同じくらい意味が分からん。」
って思ってました。他にも、怖くて嫌いなものがあります。

ジェットコースターです。

あれは、現代の拷問といっても過言ではなく、人類の生み出した電気の無駄遣いの一つですよね。

ジェットコースターの高さを 0 として、最高点の距離を h と置きます。重力加速度を g として、ジェットコースターと人の質量を m とします。ジェットコースターが最高点に到達した際にはmghの位置エネルギーを持っており、1/2mv^2と等式の関係が成り立ちます。

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個人的にはこっちのほうが壮大な気がして好き

というようなことを考える暇もなく、あの鉄の塊は無慈悲にも頂上から落っこちていくわけです。しかも、何が嫌って、友人と行くと断れないでしょ、あれ。「○○も乗るよね!」ってキラキラした顔で言われたら、断れないでしょ。「え?全然余裕ですけどwww」みたいな顔して、実際は心臓バクバクしてるんです。わかってください。というか、そもそも友達とそんなとこ行くのも個人的には苦手なんです。喫茶店でいたずらに時間を潰そうよ。
あと、単純に怖い。高いところは怖いし、早いのも怖い。

という感じで、今でもジェットコースターは苦手なんです。
しかし、ホラー映画には慣れてしまいました。これが大人になるっていうことですかね。あらゆる現象に関して、「んなことあるわけねぇじゃんwww」って最終的には言えるようになった、ってことかと、思ってましたが、そこじゃないんです。考えが変わっただけなんですよね、自分の中での怖いものランキングが。

生きてる人間が、一番怖いよ

映画「サクラメント 死の楽園」について

この映画のご利用ガイド

さて、今回この映画を挙げさせてもらいましたが、先に言っておきましょう。

この映画、所謂「胸糞映画」です。全員にオススメ出来るものではなく、尚且つR18指定のある作品です。嫌な予感しかしませんね。

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お前のことだぞ、ミスト

一人で観ることをオススメします。それか、嫌いなカップルにでもオススメしてあげてください。

私は紹介しているだけで、オススメしているわけではないです。(保険)

以下、過激な内容をサラッと書いているので、閲覧注意です。

事前に知っておきたい情報

この映画の内容を紹介する前に、書いておきたい事が2つあります。

1.最強の臨場感演出法「POV方式」

「POV方式」という言葉をご存知ですか?

POV方式とは「Point of View Shot」の略で、日本では「視点ショット/撮影」「主観ショット/撮影」などと訳されます。 カメラの視線と登場人物の視線を一致させるようなカメラワークでよりリアリティのある映像を作り上げることができるため、フェイク・ドキュメンタリー映画でこの方式が取られます。

ピンと来ない人は映画「パラノーマル・アクティビティ」を想像してください。映画用のカメラではなく、ホームビデオのような物で撮影した映画です。あの大泉洋が出てるバラエティ「水曜どうでしょう」の感じで、ホラー映画を取ったら、「パラノーマル・アクティビティ」になります(適当)

この手法はフェイク・ドキュメンタリーと言うジャンルを効果的に演出する方法で、映画「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」が走りだと言われています。

後にこの手法を利用した映画が大ヒットし、一気に人気ある撮影手法として確立されました。その映画とは以下の二つ

パラノーマル・アクティビティに関しては有名すぎますね。たった1.5万ドルで作ったとは思えないクオリティと売上を記録しました。しかも怖い。けど、ビビった自分に腹が立つから嫌い。全シリーズ観た。

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恵まれたジャケットから、クソみたいな日本語と副題

そして、クローバーフィールド。こちらは、「なにか分からない、凄く大きな何者かにニューヨークが滅茶苦茶にされる」といったSFパニック。この映画は、当時の映画の常識を大きく変えました。この映画、最後まで敵の存在がなんなのかほとんど分かりません。ずっと一人称視点で映画は進んでいくため、私たちが理解しているレベルが、主人公と同期してしまいます。従来の神様視点で、おおよそのストーリーが分かる必要がある、という常識がぶち壊されました。

長くはなりましたが、このPOV方式で撮られた映画は、以上の2つの作品を契機に爆増していきます。

今回紹介する映画も漏れなくこの手法で撮られているため、臨場感は折り紙付きです。

2.人民寺院集団自殺

こちらの字面の怖さ。

軽く「人民寺院」(通称:ジョーンズタウン)について概要を掲載しますね。

ジョーンズタウンは、アメリカ合衆国キリスト教新宗教(カルト)・人民寺院によってガイアナ北部に開拓・設立された町(コミューン)。正式名称は、ピープルズ・テンプル・アグリカルチュラル・プロジェクト(人民寺院計画)であり、ジョーンズタウンは通称である。1978年11月18日、この人里離れたコミューンで計918人の集団自殺を決行したことで世界的に著名になった。後にこの開拓地の名前は、このコミューンで起こった惨劇そのものを示すこととなった。

(Wikipediaより)

そのまま掲載してしまうと、「ん~よくわからん」になるので、簡単にかみ砕いて話していきましょう。

1950年代に人民寺院アメリカで生まれ、妄想と紙一重の異常な思想に染まった教祖の下で海外への集団移住を行い、ついには大量の集団自殺という形で終焉を迎えました。
この集団自殺は世界中に衝撃を与え、現在に至るまでカルト宗教の代名詞として知られる原因となります。
当初の思想は、白人と黒人の融和、そして貧富の差の撲滅でしたが、末期には「財産と生活を教団にささげること」「教祖とヤること」が第一とされ、最終的な目標は「別の惑星で皆ひとつの魂となり、永遠の幸福を得ること」と設定されていました。あまりに過激すぎる「人類補完計画」みたいなもんですね。

この新興宗教の創設者および教祖はジェームス・ウォーレン・"ジム"・ジョーンズ。彼の名前をとって、人民寺院はジョーンズタウンと呼ばれていました。この集団自殺では全体で918人が死亡し、内276人が子供でした。現代における同様の惨劇の中でも最大規模のものであり、2001年9月11日にアメリカ同時多発テロ事件が発生するまで、アメリカ合衆国民の故殺において最多の被害者数を記録した事件だったのです。

これがおおまかな説明になります。伝わりずらいかもしれません。申し訳ない。。。

ここまで読んでいただき大変感謝していますが、同時に、この映画を観る気力はどんどん削がれていきませんか?

サクラメント 死の楽園」

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不穏要素の塊のようなパッケージ

【あらすじ】

ある日、連絡が途絶えていた妹から奇妙な手紙を受け取ったパトリックは、過激な突撃潜入取材で知られるVICE社のサムとともに、妹が暮らす共同体に潜入取材を敢行する。「エデン教区」と名付けられたその場所では「ここで豊かな生活ができるのは『ファーザー』のおかげだ」と、パトリックの妹をはじめ、誰もが幸せそうに生活を送っていた。しかし、平和に思われた「地上の楽園」に、不可解な空気が見え隠れし始める。

こちら、劇場公開はほとんどされておらず、所謂B級映画。そらそうよね、内容が内容なんで…。

監督はあのグロ表現に定評のあるイーライ・ロス。かなりの大御所なんですよ。だから、B級という括りにするのも少し怪しいところ。「ホステル」や「グリーン・インフェルノ」、「イングロリアス・バスターズ」あたりが有名ですかね。

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澄ました顔して、とんでもない作品作るなぁ、お前な

この作品一番の特徴は

ほとんどの登場人物の様子がおかしい

ということ。

映画の序盤を軽く使って紹介していきます。

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主人公(右)とその相方

突撃潜入取材に来た彼ら。二人は映画の最初から、「なんか胡散臭いよな」という、半信半疑の状態で人民寺院に向かいます。そこでの信者たちの生活はまぁまぁ充実してそうで、彼らがいうところの「俗世」とはかけ離れた生活を送っているようです。ここで自給自足が成り立っているみたいですね。

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なんか銃もってる自治警察みたいなのはいるけど。。。

ある程度ここの生活がわかってきたところで、彼らは、ある集会のワンシーンをみることになります。

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定期集会のシーン

このシーンから何か感じますか?おそらく何も感じないと思いますし、単なる一つのシーンです。

しかし、彼らの前で話している人間がだれなのかわかれば、皆の面持ちの違和感に気が付くはず。

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教祖だよ

そう。事前に紹介した、畜生。
彼はこの新興宗教の教祖である。
言っていることは滅茶苦茶。やることも過激。
しかし、それに違和感を持った表情をする人間はいない、主人公たちを除いて。

定期集会のシーンで「何か感じますか?」という問いを投げかけました。何かを感じるわけないですよね。

だって、彼らとしては教祖の言葉を「あたりまえ」であると受け取っているので、表情から受け取れるものなんてなにもないんです。ここが、私たちの「不安」「違和感」を掻き立てる重要なシーンとなります。明らかに自分たちと違う思想を持った「人間」が、何喰わない表情で存在している、ということに一種の「恐怖」を覚えます。

 

個人的な見解ですが、映画の演出としていちばん怖いのは「言葉に出来ない、謎の違和感」だと思っています。「もうすぐびっくり系が来るぞ!」っていうのは、用意ができるし、わかりやすい。仮に、その読みが外されてもびっくりするだけです。

「不適な笑み」という言葉が、不気味な表情の表現に使われたりしますよね。それは形容「できている」んですよね。

この作品ではそれが不可能です。なにかわからないが、「様子がおかしい」。その「違和感」をうまく言葉にできないまま映画は進んでいきます。

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やっとの思いで見つけたまともな人

この映画、登場人物全員が狂っているわけではありません。
潜入取材が進むにつれて、少しずつこの場所の化けの皮が剝がれてきます。
まともな思想を持った人も存在していることも確認し、物語は少しずつ、「取材」から、「この場所からの脱出」に目的が変わってきます。

また、物語の進行と同時に我々が抱いていた「違和感」の輪郭が浮き出てきます。
この畜生の教祖が一体何を考えているのか、信者がここにいる目的とはなんなのだろうか、そもそもこの場の真の目的とはなんなのだろうか。

抱いた「違和感」が「理由」に変わったとき、また「恐怖」を植え付けられます。

最悪なシナリオがいとも簡単に想像つくからです。

続きは、映画を見て確かめてください。

かなりショッキングな映画です。ですが、怖いものみたさを煽る「ムカデ人間」同様、興味本位で観てしまう映画だと思ってしまいます。私は少なくとも興味本位で観ました。

 

最後に

こちらの作品をオススメはしません。ですが、こんな事件があったのか、とフィクションではあるものの、知っておくべきものかもしれません。
母が「いちばん怖いのは人間だよ」と言っていた理由をこの映画でまた確かめました。下手なホラー映画なんかよりよっぽど怖いですよ。